第二の人生を迎える方へ

~民事信託の活用~

快適なシニアライフのために,財産活用と身上配慮について現状を取り巻く諸問題,解決の方法などを忌憚なく書いています。60代,50代の元気なうちにぜひご一読ください。

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 かかりつけ弁護士「ロイヤーズクラブ」 


第1 現状の確認と問題提起

1 問題の所在

平成16年信託業法改正及び平成18年信託法改正の国会附帯決議において,「高齢者・障害者の生活を支援する」ため「福祉型の信託」が提唱され,その担い手として弁護士等の参入の取り扱いの検討を行うことが求められている。

福祉型の信託とは,高齢者や障がい者の生活を支援するための民事信託の一種である。すなわち,財産管理機能に加えて,高齢者や障がい者の身上を監護することが求められている。しかし,福祉型の信託は制度上の制約として,身上監護の機能を本来的には有していない。信託制度のみでは,福祉型信託として謳われている制度の目的を達成することができない。そこで期待されるのが,法律専門職により,家族,医療・介護関係者及び金融機関など,高齢者に関わる関係者をコーディネートし,「高齢者・障害者の生活を支援する」ことである。

本稿は,民事信託を担うことができるのは,弁護士その他の法律専門職に他ならず,弁護士等が財産管理としての信託の仕組みを担うとともに,福祉専門職等との連携を通して高齢者・障がい者が,より一層快適なシニアライフ・ライフプランを実現できるよう身上監護にも配慮すべきことを提案するものである。なお,以下の記載からは,「障がい者」を対象から併記することはないが,「高齢者」に含んで論述しているものである。

2,現状の制度比較

(1)高齢者の財産管理をサポートするための制度

それでは,高齢者がより一層快適なシニアライフを送れるようにするためには,現行の制度におけるどのような問題点を,どのように解決するべきであるか。それにはまず,高齢者の財産管理,身上監護及び意思決定支援について,現在いかなる制度が存在し,それがどのように活用されているかを確認する必要がある。

高齢者の財産管理をサポートするための制度としては,現在,大まかに分けると,次の3つの制度が用意されている。委任,信託,成年後見(任意後見・法定後見)である。以下,各制度について比較しながら概観する。 

(2)委任と信託との制度比較

高齢者のための適切な財産管理のニーズに応えるための制度として,委任と信託がある。成年後見制度ではまかないきれない高齢者の多様なニーズに応えることができ,かつ利用者の保護に厚い仕組みが,目下,必要とされており,その意味で委任・信託の活用が期待されている。

財産管理のニーズに応えるという点では,委任・信託が最も汎用性があり,可能性がある。委任も信託も,判断能力が低下した後や自分の死後も財産をコントロールできる方法という意味では共通点がある。

他方で,委任と信託は身上監護に対応できるかという点が異なる。信託における財産管理では,予め決まったとおりに,本人に金銭を定期的に交付し,必要な支払をすることはできるが,交付された金銭をどう利用するか,また本人の意思を踏まえて本人の生活をどのように支援にしていくかというところまでは対応が出来ない。身上監護の面においては委任の方が制度として優れていることから,信託を活用する場合はこの点を他の制度により補完する必要がある。ちなみに,信託では受託者が医療に関する費用支出の財産も管理することから,医療同意権をも有することができるのではないかとの説もある。しかし,身体侵襲という一身専属権に関わり,かつ延命治療にも関わる問題であり,判断力があるときの本人から事前指示を受けている立証ができない限り,受託者に医療同意権を認めることはできないと考える。

(3)委任・信託と成年後見制度との比較

現行の成年後見制度は,判断力が低下した者に対する,安全な財産管理を目的としているため,その利用においては多くの制約が課されており,高齢者の様々なニーズに十分対応できない状況がある。

成年後見は,判断能力の減弱した高齢者の権利を擁護する仕組みであるが,判断能力があるうちは利用することができない上,家庭裁判所の監督の下,必要最小限の生活費用以外の財産の活用については厳しく制限されているため,高齢者のための財産活用や意思決定支援という観点では,不十分である感が否めない。この意味で,法定後見はいずれ財産を引き継ぐ推定相続人のための資産管理制度といえ,高齢者本人の生活の質を上げるために本人の資産を活用することには向いていない。そこで,委任・信託の活用が求められる

たとえ委任・信託を活用しなくても,信頼できる同居の親族がいる場合には,高齢者が快適なシニアライフを送ることも困難ではない。しかし,独り身であるとか,子供に面倒をみてもらうことを望まない高齢者の方々も多数存在することから,そのような場合には委任・信託の制度を活用すべきニーズがある。このような高齢者と信頼関係を築くことができたホームロイヤーが委任・信託に基づき財産管理・活用を行い,高齢者の身上監護を支援することで,高齢者は自己の意思に基づき自分の資産を自己のために活用し,快適なシニアライフを送ることができるようになる。


第2 ホームロイヤーとは

 ホームロイヤーとは,かかりつけ医の弁護士版,即ち「かかりつけ弁護士」のことをいう。

ホームロイヤー(かかりつけ弁護士)は,弁護士が,民法上の委任(準委任)・信託を根拠に,高齢者が心身ともに健康な時期から日常生活における相談に乗ることで,判断能力が低下した後のライフプランについて具体的な希望を継続的に汲み取っていく仕組みである。ホームロイヤーは,日常の法律相談の中で,高齢者と信頼関係を構築し,最終的には任意後見や相続までつながる支援を行うという,継続的かつ長期的な視点での関わり方をする。その点で,個別の案件ごとに依頼者と関わる,従来型の弁護士のあり方とは様相を異にする。

弁護士が,高齢者の方々に関わる段階として,60歳代・70歳代の元気なときを想定すべきである。なぜなら,その時代こそが高齢者と弁護士との間に信頼関係を築き上げるのに最適な時だからである。弁護士がホームロイヤーとして,高齢者の日常の法律問題を解決し,信頼関係を築き上げることで初めて,高齢者の財産活用や身上配慮に携わることが可能となる。その上で,任意後見や信託の仕組みが活用されるべきだと考える。


 ところで,平成27年度日弁連人権擁護大会では,「成年後見制度から意思決定支援制度へ」というテーマによるシンポが行われた。ただ,高齢者に対する意思決定支援は,法律家が主体となるのではなく,主に医療・介護・福祉関係者が日常の「過程」の中で,具体的・個別的に行われるべき課題であろうと考える。関弁連においても平成27年9月18日に同様のテーマでシンポジウムを開催したが,関弁連では,この意思決定支援の仕組みとして,法律家が担当すべき高齢者の財産活用による身上配慮をメインテーマとしている。同一のシンポテーマではあるが,関弁連のシンポジウムは,弁護士業務としていかに高齢者問題に取り組むかという視点からのテーマ選定となった。この高齢者問題における意思決定支援の仕組みこそが,任意後見であり,民事信託であって,そこに至る前提に弁護士がホームロイヤーとして高齢者の方々から信頼を獲得する機会が必要なのである。

 

 そして,任意後見や信託の仕組みを活用する前提とすべきホームロイヤー制度は,次の課題を克服していかなければならない。

 

人材の確保

第一に,受任する弁護士の資質の問題がある。弁護士には,高齢利用者の信頼を守っていく不断の努力が求められる。ホームロイヤーへの信頼を担保するため,ホームロイヤーとなる人材は,弁護士会が責任をもって推薦することとすべきである。そのために,弁護士会は,ホームロイヤーを養成・支援するという,新たな業務改革に取り組んでいくべきである。

ホームロイヤーバンクの整備

第二に,利用者本人が,自身で様々な情報を取得し,分析し,安心して依頼できる弁護士をシビアに選択するために,信頼できるホームロイヤー候補者にアクセスすることができる仕組みが必要である(ホームロイヤーバンク)。ホームロイヤー・任意後見人を養成・支援する弁護士会は,ホームロイヤー利用者が,自分に適したホームロイヤーを選択できるよう,個々の弁護士や弁護士会に関する情報開示等のシステムを構築すべきである。

監督システムの整備

第三に,受任者を支援,監督し,本人の意思を適切に反映させる仕組みが必要である。例えば,弁護士会において定期的な報告,助言を受ける仕組みなどが挙げられる。弁護士会は,ホームロイヤーを利用する高齢者が,ホームロイヤーから不適切な行為を受けた際には,利用者本人が苦情を申し出る能力が減退している状況にあるという特色を有していることを,肝に銘じるべきである。

第3 信託制度の有用性

 信託は,成年後見制度を代替し,また成年後見制度と併用する手段として有用である。現行の成年後見制度によれば,後見人等はあくまで家庭裁判所が選任するため,任意に選ぶことができない。これに対し,民事信託によれば,受託者を自由に選ぶことが可能である。判断能力があるうちに,本人の財産を有効に活用する信託を気心が知れた専門職を受託者等として設定することで,まだ高齢者に判断能力がある時期の意思に従った財産活用が可能となる。

さらに,本人の判断能力が完全に低下した場合,信託のみでは身上監護に問題を生ずることが考えられるが,その場合は信託により財産活用を図った上で,成年後見(任意後見)制度により身上監護を行うなど,両者を併用することもできる。

 

 信託による財産管理は,成年後見制度の利用対象とならない者による利用が可能である。すなわち,成年後見制度はあくまでも判断能力が低下した者しか利用することができない。これに対し,民事信託は判断能力に関係なく利用することができる。したがって,身体能力が低下などにより日常の外出が困難なため,あるいは,多額の財産管理が負担となっているため,ある程度包括的な財産管理を他者に任せたい場合などに有用である。

 

 民事信託によれば,通常の民法に従った相続では有効性に疑問があるとされる後継ぎ遺贈を実質的に行うことが可能である(信託法91条,後継ぎ遺贈型受益者連続信託)。民法の通説によれば,後継ぎ遺贈は認められず,判例上も認められていない。しかし,たとえば,前妻の子と後妻が法定相続人となる相続において,後妻の生存中は後妻に財産の利用をさせ,最終的に前妻の子に取得させたいとする場合,民事信託は有用である。

また,高齢者が自分の死後に認知症の配偶者や障害を抱えた子女に財産を残したい場合,民法の遺言により財産自体を残すことはできるが,相続人自身が受け継いだ財産を適切に管理する能力を有していなければ,たちまちに散逸してしまうおそれがある。このような場合にも,遺言代用信託(信託法90条)を活用することで,自身が死亡した後の障害を有する子の生活を心配せずに余生を送ることができる。

 

 なお,平成24年2月から最高裁判所が案出した後見制度支援信託の運用が開始され,平成26年1月から12月の一年間で2,754人(前年537人)が後見人の代理を介して信託契約を締結した(※1)。ただし,後見制度支援信託は,本来家族後見人の不正を防止することを目的として導入された制度であり,成年後見人が裁判所の許可なく被後見人の預金口座から金銭を引き出すことができる権限(民法859条,859条の3)に歯止めをかけ,定期交付金として常用口座に振り込まれる生活費用以外の引き出しには,家庭裁判所の審査及び指示書の交付を必要とするものである。したがって,後見制度支援信託における一時交付金の運用としては,現在のところ,高齢者本人の施設入居費用を支払う場合や,本人所有不動産を介護仕様にリフォームする場合に止まっており,高齢者が一層の快適なシニアライフを送るために信託口座から金銭を引き出すことはできないといっても過言ではない。

この点,民事信託を活用すれば,より高齢者の意思に沿った財産活用が可能となるのであり,本稿が民事信託の活用を推進しようとする目的もここにある。

 

 高齢者がより一層快適なシニアライフを送れるようにするためには,民事信託の制度が優れている。ただし,民事信託を推進するには受託者による適正な財産管理を担保することが必須となるのであり,だからこそ弁護士が民事信託をコーディネートし,更に自治権を有する弁護士会が弁護士を支援・監督する体制を構築することが必要となる。また,前述の通り,信託一本では,身上配慮に十分に対応することができない。そこで,弁護士が信託の担い手ないしコーディネーターになるとともに,弁護士を中心として福祉職等とチームを組み,信託制度に本来欠けている身上配慮の機能を付加することが求められている。

この両者を担うことができるのは,法律専門職として委任制度,信託法制,後見制度に精通しているとともに,成年後見人として高齢者の財産管理・身上監護について経験を積んできた弁護士をおいて他にはない。 

 

第4 民事信託の活用

高齢者の財産管理・身上監護の面では,民事信託を活用すべきニーズは高い。しかし,平成18年12月に信託法が改正(平成19年9月施行)されて以来,弁護士による民事信託の利用は進んでいない。

1 民事信託の利用が進んでいない原因

①信託には税法上の使いづらさや,信託業法により受託者の資格が厳しく制限されているなど,その利用を妨げている。②税法の改正が進んでいない。③また,信託業法の問題については,信託法改正時における衆議院及び参議院での附帯決議の内容が推進されていないという状況にあり,法改正による改善を求める必要があるなどの要因が挙げられている。

これらの要因はいうまでもない。しかし,民事信託の活用が進んでいない根本的要因は,むしろ,高齢者の財産管理を行う「信頼」を構築できる担い手の不存在にある。

2 民事信託の担い手として弁護士が期待される一方で,弁護士はその期待に応えていない

弁護士の信託との関わり方として,信託業法の規制が存在するため,弁護士自身が受託者となることは困難が伴う。しかしながら,弁護士が信託の文案を作成することはもとより可能である。さらに,信託設定全体のコーディネーターという関わり方も考えられる。また,信託監督人及び受益者代理人に関しては,特に資格の制限はないことから,弁護士がこれらに就任することは可能である。このように,弁護士が信託に関わる方法は現状でも存在するのであって,弁護士が法律の専門家として創意工夫をすることにより,従前の遺言や成年後見といった制度にとらわれない柔軟かつ合理的な解決策を,民事信託の利用によって提案,実行する途が,少なくとも法制上は存在するといえる。

さらに,弁護士は他士業との比較において,一般的に,契約書の文案作成に関わる頻度が高いことや,訴訟を通した紛争解決に関わる頻度が高いことなど,民事信託に関与することに適した資質があるといえる。

 

弁護士業務の現状を見るに,多くの弁護士が民事信託を積極的に利用しているということはなく,むしろ,本来であれば民事信託の利用という解決策を法律の専門家として提示するべき場面においても,十分にこれを行うことができていない。

 

確かに,税法上の使いづらさや受託者の厳格な資格制限などが存する。しかし,その最大要因は,多くの弁護士が,信託法制について理解を示さないことにある。


3 福祉職との連携

また,弁護士が民事信託をコーディネートするには,信託法制に精通するのみならず,身上監護の面で福祉職の職務内容や役割,福祉制度についても学ぶ必要がある。福祉職の働きが分からなければ,弁護士がホームロイヤーとして福祉職と連携し,身上監護についてコーディネートすることができないからである。

4 弁護士の課題

したがって,弁護士としては,信託法制を学ぶとともに,福祉職との連携に向けて福祉の世界についても精通する必要がある。そのようにして,弁護士がホームロイヤーとしての素養を身に付けることで,高齢者の快適なシニアライフに向けた民事信託の活用が推進されるのである。

第5 総括

日本社会は,世界でも類を見ないほどの超高齢化社会を迎えようとしている。そのような社会においては,高齢者の財産が使用されないように凍結・固定化し,高齢者を施設に閉じ込めるのではなくて,高齢者が自分らしく活動し,その日常生活の中でできる範囲で社会に貢献できるような社会を実現すべきである。そのような社会を実現するには,高齢者の財産を,高齢者自身の意思により活用できる仕組みを構築しなければならない。その仕組みを構築するためには,弁護士をはじめとする法律専門職が,まず,高齢者に対してホームロイヤーの仕組みを提供し,その上で築き上げられた信頼関係を前提として,民事信託及び任意後見制度を併用するのが最適であると考える。 

※1 最高裁判所事務総局家庭局HP(別ウィンドウが開きます)

成年後見関係事件の概況 平成26年1月から12月まで

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弁護士法人龍馬では早くから「快適に老いる」を考え解決すべき諸問題に取り組んでいます。 

高齢化した地方都市における、より質の高い法的サービスの実現を目指し,群馬県高崎市に止まらず,さいたま市・飯能市において,弁護士法人と司法書士法人とでけやき野龍馬グループを創設しました。

ご参考冊子『“快適に老いる!”~かかりつけ弁護士を身近に~』弁護士:小此木清 編著もあります。

 書籍:弁護士と考える快適なシニアライフと財産活用 


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