不当解雇

使用者による解雇権の行使は,法律によって厳しく制限されています。法律上許されない解雇とは,どのようなものでしょうか。会社側が示した解雇理由に,あてはまるものはありますか。

不当解雇

職場から解雇すると言われましたが,納得できません。どうしたらよいですか。

解雇の理由に納得できない場合は,解雇の効力を争うことができます。

第1 解雇を言い渡されたら

(1)解雇の理由を確認しましょう

解雇の有効性を争うためには,解雇の理由を明らかにすることが必要です。まずは,使用者に対して,解雇理由証明書の交付を請求しましょう。

解雇に際し,労働者から解雇の理由について証明書を請求した場合には,使用者は労働者に対し,解雇理由証明書を交付しなければなりません(労働基準法22条1項,2項)。これは使用者に課せられた法律上の義務です。

(2)当該解雇は無効であることを使用者に伝えましょう

解雇が有効であるためには,解雇に合理的な理由及び社会的相当性があることが必要です。解雇の理由が判明し,解雇に理由がないと考えられる場合には,当該理由による解雇は無効であることを使用者に伝えることが有効です。会社に継続して勤務することを希望する場合には,労働組合に加入して会社との交渉を進める方法や,弁護士に示談交渉を依頼する方法があります。また,解雇の客観的合理性及び社会的相当性の有無については,専門的な判断を*しますので,一度ご相談ください。

第2 解雇に合理的理由はありますか?~こんな解雇は無効です!~

1 解雇の合理的理由は,次の4つに大別できます

例1:仕事上のミスを理由に…

仕事上のミスを理由に解雇された【① 労働者の労働能力又は適格性の欠如・喪失によるもの】

この理由に基づく解雇は,著しく勤務に支障を来すものに限られ,多少のミス程度ではこれに該当しません。労働者も人間ですから,やむを得ずミスをすることがあります。使用者は,労働者を雇っている以上,多少のミスが発生するリスクは覚悟すべきなのです。

また,いわゆるワンマン社長がいる会社の場合,社長とそりが合わない,などの理由による解雇が,この事由に該当しないことはもちろんです。労働者の人間性については,採用の際に使用者側が吟味すべきです。

例2:収入のために夜間アルバイトをしたら…

【② 労働者の規律違反行為によるもの】
収入のために夜間アルバイト(副業)をしていたら,会社にばれた。

この事由に該当するためには,就業規則等の規律が存在することを前提として,なおかつ解雇をもって対応することが相当であると認められる程度の重大な違反行為が存在することが必要です。使用者が何度注意しても労働者が故意に規律違反を繰り返した場合や,労働者の規律違反のために企業イメージが著しく損なわれた場合などがこれに当たります。解雇は労働者に大きな不利益を与える行為です。軽微な規律違反による解雇は,相当性を欠くことになるでしょう。

例3:リストラで…

【③ 経営上の必要性に基づくもの】

会社の経営不振に基づく人員整理,いわゆるリストラがこれに該当します。しかし,この事由に基づく解雇も,厳しく制限されています。経営者は,労働者を雇った以上,業績が悪化したとしても,雇用継続のために最大限の努力をしなければ,リストラによる解雇を実行することはできません。具体的には,①人員整理の必要性が存在し,②労働者全体に対して早期退職の希望を募るなどの解雇回避努力を尽くした上で,③なお解雇せざるを得ない場合には,解雇の対象者を公平に選ばなければなりません。同時に,④解雇に至るまでに,使用者は労働者に対して,解雇の必要性を十分に説明する必要があります。

世間ではリストラによってクビになった人が多くいるではないか,と思われるかもしれません。しかし,実際には,そのほとんどは解雇ではなく,労働者の申出に基づく退職です。(もちろん,本心からの退職の申出かどうかは不明です。)

 

【④ ユニオン・ショップ協定に基づく組合の解雇要求】

これは,労働組合が関係する問題ですので,ここでは詳しく触れないことにいたします。

例4:妊娠したら辞めてほしいと…

2 許されない解雇の例

(1)まず,明文上許されない解雇には,次のようなものがあります。

ア 国籍,信条,または社会的身分に基づく差別的解雇(労働基準法3条)。

イ 労働者が,労働基準法違反の事実を労働基準監督署等に申告をしたことを理由とする解雇(労働基準法104条2項)。

ウ 労働者が労働組合の組合員であること,労働組合に加入し,若しくはこれを結成しようとしたこと,労働組合の正当な行為をしたことを理由とする解雇(労働組合法7条1項)。

エ 女性労働者について,婚姻,妊娠,出産,産前産後の休業の請求取得を理由とする解雇(雇用機会均等法9条3項)。妊娠中の女性労働者及び出産後一年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は原則無効とされ,事業主が,当該解雇が婚姻,妊娠,出産等を理由とする解雇でないことを証明しなければなりません(雇用機会均等法9条4項)。

(2)解雇が(1)に述べたような理由に基づくものであれば,当該解雇が無効であることは明らかです。しかし,実際には,解雇の本当の理由は上記事項であるにも関わらず,使用者がそれを隠して,表面的には合理的な(もっともらしい)理由を挙げて解雇しようとすることが多くあります。

その例として,労働者の就業規則違反,会社の業績悪化及び労働者が労働条件の変更(労働者に不利益となる変更)に合意しない,などが挙げられます。先述した通り,これらの解雇について,使用者の解雇権行使は判例によって厳しく制限されています。しかし,そのことを十分に知らない使用者は多くいます。

第3 解雇された時の対応についてのよくある質問

 

Q1.解雇予告手当や退職金を使ってもいいですか?

 

A1.  使わないでください。 異議なく退職金を受領して費消した場合は,解雇が無効であることを主張しえなくなることがありうるので注意を要します。
そこで,使用者が銀行口座などに解雇予告手当・退職金を振り込んできたような場合には,これを返還・供託するか,労働者において預かり保管し,以降発生する賃金の一部に順次充当する旨の意思表示をしておくべきです。これらの意思表示は,証拠を残す観点から,内容証明郵便で行います。

 

Q2. 離職票の受領,健康保険証の返却はしてもいいですか?

 

A2. はい。失業保険を受給するためには,離職票の受領が必要です。また,離職票の受領や健康保険証の返却は,解雇承諾の意思表示とはなりません。

 

Q3. 解雇の効力を争う場合,雇用保険の失業給付をどのように受ければよいですか?

 

A3. 解雇の効力を争っている場合は,失業給付の仮給付を受けることができます。職業安定所に,係争中であることを証明するものを提出すれば,仮給付が受けられます(事件係属証明書等)。
仮給付の場合は,解雇無効を主張して係争中であることを前提にしているので,職安から求職活動をすることを要求されることはありません。ただし,仮給付はあくまでも仮の給付なので,後日解雇が無効となり,解雇期間中の賃金が支払われると,失業給付の仮給付は返還しなければなりません。

第4 解雇の有効性を争う方法

解雇の有効性を争う主な方法として,①労働審判,②訴訟提起(労働契約上の地位確認訴訟)が挙げられます。詳しくはこちらをご覧ください。

1 裁判所における労働審判

使用者側と話し合いによる交渉ができない場合は,裁判所における労働審判の申立をすることが考えられます。

(1)労働審判のメリット

短期間の審理で結論が出ます。

(2)労働審判のデメリット

3回の期日で結審するため,争点多数,当事者多数の事件には向きません。

2 訴訟の提起

争点が多数ある,事実関係が複雑である,関係当事者が複数である等の場合は,労働審判に適しませんので,通常訴訟を提起することになります。訴訟を提起することになると,訴訟法の知識が必要になりますので,弁護士に依頼する必要性が高いということができます。

第5 おわりに -不当解雇と思ったら,まず弁護士に相談を

解雇を通告されても,不当解雇だと感じる場合は,すぐに諦めて退職せず,ぜひ弁護士にご相談ください。